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第一章(3)  06/28/2008  
【現-うつつ-】

    第一章(3)
   ◇ ◇ ◇

「学校始まるとさ。」

 蒼がコントローラーをひっきりなしに動かしながら、画面内のどこに自分の操るキャラがいるか探しながら言う。

「朝も起きなきゃいけないし、授業つまんないし、面倒だけど……」

 蒼が操るキャラをコンピューターが吹っ飛ばす。まだ上手く操れない蒼のキャラは、ステージに戻れないまま画面から消える。

「涼とほとんど毎日会えるから、私あんま嫌じゃないんだ。」

 チラッと見るとまた顔が赤い。恥ずかしくなるのに言うなんて、こいつばかだと思いつつ、そこが可愛いし、やっぱり羨ましい。俺もだよ、と言えないまま、さっき蒼のキャラを倒したコンピューターを吹っ飛ばした。

 蒼はゲームが下手なだけでなく、何をするのも鈍い。体が小さいから早そうなのだが、行くぞ、といってから支度をするまでも、歩くのも遅い。一回イライラして注意したのに未だに直らないところを見ると、元からどんくさい子なんだと涼は思う。

 ひたすらゲームをして、そろそろ帰る時間。ちょっといじける蒼に対し、明日は学校だからしょうがないよ、とお決まりの会話をして家を出る。

「お邪魔しました!」

 昼間より寒くなっていた。結局涼の母親に借りた上着をそのまま着て帰る。涼は近くの駅まで見送り。改札までは、学校の友達のことを話していた。二人は学科が違うが、蒼は涼の友達をたくさん知っている。もうすでに蒼とも友達の人が何人もいた。

「じゃあ、また明日ね!」

 改札前でお別れのキス。これはもう日課。改札を入った蒼は、何度も振り返り、手を振りながらホームへと向かう。涼の方を向きすぎて、階段で転びそうになった。

「まったく……」

 姿が見えなくなるまで見送り、家に帰ろうとした涼の携帯が鳴る。相手は蒼。

「お泊りさせてくれてありがと、夏休み最後、楽しかった! 三十七分のに乗ります。」

 蒼は絵文字をあまり使わない。前に理由を訊いたら、絵文字がたくさん入ったメールが読みにくかったからだそうだ。そこだけ考えるとサバサバしているのかな、と思うけど、乗る電車の時間を送ってきたり、どんなときでも必ず家に帰ったらただいまメールを送ることを考えると結局どうなんだろうと思う。

 でも、まめで健気なのは涼だけではなく、多くの人が知っていた。涼の方が授業終了時間が遅いと、何時まででも待っている。まだちょっと肌寒い日も外で待っていて、触れた手が冷たくなっていた。それでも笑顔でお疲れ様、という蒼に、涼がなんか理由をつけて上着を貸す光景は、キャンパス内でよく見られた。

 メールから約一時間後、蒼は自分の家に着いた。寂しいからとぬいぐるみが何体も置いてあるワンルームマンション。ただいま、と言っても返事はない。代わりにいつも、涼にただいまメールを送る。

「明日から学校か……」

 独り言をつぶやき、荷物を片付ける。明日は授業をほとんどしないだろうと思いつつも、ルーズリーフ、下敷き、筆箱は持っていかないと気がすまない。根はまじめなのだろう。でも一限に間に合う時間に行くのは面倒だから、と二限から学校に行くように目覚ましをセットし、お風呂に入った。
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